短冊に「おとうさんとおかあさんが死んで欲しい」と書く園児

 この時期、思い出すのが、短冊に「おとうさん、おかあさんがしんでほしい」と書いた園児のことである。子供の心の中までのぞくことはできないので、子どもの本心は定かでない。また、本当のところを確かめることもしなかった。できなかった。ただ、担任と共にあらゆる可能性を想像して子どもに接してきた。あらゆる可能性の中で特に注意したのが「幼児虐待」のことである。5月には健康診断があり、その子の体に虐待を受けたような傷はなかった。言葉での暴力であろうか。そんなことも思った。私たちの心配をよそに、その子は元気に毎日を過ごし、やがて夏休みを迎えた。この子と長い夏休みを離れて過ごすのは気がかりであったが、しかたなかった。そして9月、その子は元気に登園し、2学期が始まり、いつもの生活が始まり、そして卒園していった。卒園後も、特にその子についてのうわさはなかった。あの時、なぜ「おとうさん、おかあさんがしんでほしい」と書いたのだろうか。その日の朝にでも両親に叱られたのであろうか。何かの理由があり、今もそのことの心の傷を持ってはいないだろうか。ただの気まぐれだったのだろうか。

 結果オーライならばこれでよかったのだろうか。もし結果オーライでなかった場合、私たちはどうなるのだろう。この子はどうなっていたのだろうか。考えると背筋が寒くなる。かといって、このような時、積極的に関われるであろうか。それも自信がない。

 保護者はこんなことが幼稚園であったことなど何も知らない。私たちだけが心配し、気をもみ、ひやひやしている。そして、月日が流れる。