「パソコンて、積み木遊びだよ」

  ある朝、卒園児のYくんがふらっとやって来た。近くまで新聞配達に来ていて、懐かしくなって寄ってしまったとのことである。朝の掃除の忙しい時でもあり、1時間ほどは幼稚園の中を探索してもらって、掃除が一段落したところでお茶をした。Yくんは高校3年生、大学受験中であるとのこと。

 卒園児が訪ねてくれるといつも聞くことであるが、幼稚園のことで覚えていることを聞くと、行事のことや園舎や固定遊具が変わっていないと一通り話した後で、「ケヤキの根っこの形が変わっていないね」と言った。こんなことを聞くのは初めてである。確かにケヤキの根っこの形が変わっていないのは毎年運動会の万国旗の紐をそこに縛るので私もよく知っている。Y君もケヤキの根っこで遊んでいた一人だったかもしれない。

 子どもたちは、ケヤキの根元でよく遊んでいる。葉っぱを運んで来たり、小枝を集めたり、石ころを拾ってきては何やら遊んでいる。季節やメンバーによってその遊びは色々である。近くを通っても具体的に何の遊びなのか確認したことはないが、どうも私達大人を必要としない遊びであるらしい。自分たちだけで展開発展させて、あのエリアは子どもたちだけのものである。男の子達が遊んでいたり、女の子が遊んでいたり、遊びの内容もいろいろである。そんなケヤキの根元がY君にとっても楽しい遊び場であったのだろう。地面から飛び出した曲がりくねった根っこ、あの曲がりくねった根っこがY君たちの遊びに必要であったのか、邪魔なものとして記憶に残っているのかそれは定かではない。しかし、非常に記憶に残っていることに変わりはない。当時Y君も、あの根元で石ころや小枝、葉っぱや草花、砂や泥と一緒に楽しく遊んだに違いない。どんな高額な固定遊具よりも楽しく。

 話が将来のことに及んで、「デジタルなゲームでなく、アナログなゲームを作りたい」と話していた。私にはちょっと理解に苦しむ内容ではあるが何となく解ったような気がする。Y君はこれまで随分とパソコンでのゲームを楽しんできたとのことである。ところがどうも本当のゲームの楽しさはデジタルなものでなく、アナログのほうが楽しいとのことである。だから将来はアナログなゲームを創りたいとのことである。ところでパソコンて何?と聞くと、「積み木」だと答えた。積み上げ方によって、いろいろなものになる。積み木そのものの形は決まっているけれども積み上げ方、組み合わせによってなんにでもなる。話を聞いていると、パソコン、デジタルというものは、子どもの遊びの中にその本質があるではないか。工夫やアイディア、ひらめきそれらがパソコンの操作の底にあるではないか。この時期、たくさん遊んでひらめく心や工夫する心を豊かにすることが、将来がパソコンを使いこなすとても大切なことを含んでいることを教えられたような気がした。ありがとう!Yくん。