幼稚園に貴方は何を期待していますか?

 入園式の行われているこの場で、保護者の貴方は何を考えていますか。貴方のお子さまはどこに座っているかを確認し、立ったり、落ち着かないそぶりをしてはいないかと、目はきっと貴方のお子さまに釘付けになっていることと思います。一方、この幼稚園に入園させるに当たり、貴方は、幼稚園に色々な期待を持ったことと思います。しかし、貴方の期待は明日からことごとく裏切られることでしょう。

まず驚かれることは、実のたくさんの病気を持ち帰ることでしょう。水痘・耳下腺炎・風疹等かねてより良く知られた伝染病に加え、りんご病・手足口病・とびひ・プール熱などである。1年間に一通りかからないと落ちつかないものである。

 次に乱暴な言葉使い、生意気な態度、反抗的な物腰。これだけではありません。引っかき傷、すり傷、あげくの果てには病院に駆け込む怪我さえしてきます。「こんなはずではなかったのに」と、思うことでしょう。楽しい幼稚園。しつけも教えてくれて、その上お勉強も、優しさも教えてくれる幼稚園。そんなことを頭に思い浮かべ、今日のこの入園式を迎えられたことと思います。しかし、実際の幼稚園は「こんなはずではなかったのに」の連続です。かつて、「足の一本や二本折ってもいい、生きて帰ってくれば」と、手紙をくれた保護者が居ました。それは大げさなことですが、それ位、子どもたちは無菌、密閉された部屋の中で育ってきているということです。無菌、密閉された部屋の中で育ってきた子どもたちが一気に子どもたちの群れの中に放たれるのですから、病気はもとより、けんかや怪我もします。「放たれる」とか「群れ」とかたいへん失礼な表現をしていますが、この時期の新入園の子どもたちは、動物の集団よりも無秩序です。動物たちは本能的に集団行動をとりますが、人間の子どもたちには本能的な集団行動というものはありません。当然、身勝手な振舞いそのものです。動物たちは集団で行動することで、外敵から自分たちを守ろうとしますが、子どもたちは弱肉強食の状態です。ですから、強い子どもがおもちゃでも遊びでも独り占めで、つきとばす、かみつくことことは日常茶飯事です。知的障害のある子どもよりもっとひどいものです。こんな状態を知らない保護者はつきとばされた、かみつかれたと苦情を言ってきますが、つきとばす、かみつく子が居るからそうなのであって、私たち先生は、ひたすら謝りますが、つきとばす、かみつく子の保護者に苦情が言えたらどんなに楽かと思います。ビデオにとって見せたいくらいです。私達はこんな状態を経て仲良く遊ぶこともできるようになる子どもたちであることを知っていますし、こんな状態の中から一歩成長させることが仕事ですから、保護者の苦情にも耐えますが、「こんなはずじゃなかった」と思うお母様、子どもの成長過程は「こんなはずじゃなかった」ことを経験しければ、強くたくましく、その上、やさしさのある子どもには成長しません。お母様、貴方自身が、「こんなはずじゃなかった」ことを経験してきたことをもう忘れてしまったのですか。