似顔絵と肖像権-3  2005.6.17

路地や公園で海外のサッカー選手の似顔絵や世界的に有名な映画スターの似顔絵を描いて販売している人がいる。言うまでもなくこの人たちのやっていることは肖像権の侵害であり犯罪である。さらには雑誌の写真やポスターをそのまま写実的に描き写しているとすれば、その写真の著作権も侵害しているということになる。

現実的にはこういった行為を見て、しかるべき著作者や肖像権を管理する組織や団体に通報するというケースもないようだし、その似顔絵描きたちが得た収入が訴訟を起こすに値するかというと、そうではない場合のほうが多いので、実際に起訴されるということもなければ、その行為を中止するように要求されることもほとんど無いであろう。

しかし、これらの行為は明らかな犯罪であり、咎められなければ、見つからなければOKということで窃盗を繰り返しているのと大差はない。

中には「なぜいけないのだ?」と食い下がる似顔絵描きもいるかもしれない。しかし答えは簡単だ。買う人は「(仮に)Aという似顔絵描きが描いたベッカムの似顔絵」であるならば、それはベッカムだから買うのであって、Aが描いたから買うのではない。試しに誰であるか推定できない想像のサッカー選手を描いて売ってみればよい。誰も買わないはずである。逆にA以外の人が描いたベッカムの似顔絵であれば売れるはずである(Aと同等の似顔絵スキルのある人であれば)。

というわけで、こういった行為が「有名人の顧客収集力を利用した営利」という典型的な例ということだ。増して写真を見ながら写実的に描くというのは決して特別な能力でもスキルでもない。人体デッサンや石膏デッサンをきちんと勉強した人間であれば誰でも持っている技術であり、日本だけでも少なく見積もっても数十万人の人間が持っているスキルなのだ。




似顔絵と肖像権-2  2004.7.25

この項の下に1998年に書いたものがある。6年経過したことになるが、状況はほとんど変わっていない。漫画家小林よしのり氏と「日本の戦争責任資料センター」事務局長・上杉聡氏の訴訟問題があったにしろ、これは極めて特異な出来事。最終的には2004年7月15日最高裁で小林よしのり氏が再逆転勝訴というかたちにはなったようだが、これが今後の全てのケースに当てはまることではない。「ドロボー」などの記述や真実性の証明が不要な「論評」が争点ともなっていて、似顔絵単独での肖像権の抵触について議論するには状況が特殊であると言えよう。

例えばテレビに頻繁に登場している芸能人。彼等は仮に視聴率10%の番組に1回出演するだけで、約400万人が見ることになる。その他CMや雑誌、諸々の広告媒体を含めれば膨大な頻度で多くの国民の前に露出していて、そこで得られる経済的効果も計り知れないものがある。

たかだか1万部発行の印刷物などは気にする範疇ではないと言う有名人もいるかもしれない。増してや1日に100アクセス程度のウェブサイトなどは眼中に無いかもしれない。1回のイベントで数万人の集客力のある芸能人にとっては、自分の似顔絵を描かれているホームページなどというものはいちいちかまっていてはキリがないだろう。

では、気にしないで何でも描いて掲載して良いのか?というとそういうコトではない。名誉毀損によって明らかに経済的にマイナスの結果が予想されるとすれば黙ってはいないだろう。訴訟以前に本気で怒る!だろう。裁判になるというのは起訴する側にとっても色々と手間がかかり、勝訴する可能性が高くなければ、そんな面倒はことはしないはず。ただし心情的に許されない場合には、訴訟うんぬんとは別のアプローチの可能性もあるかもしれない。

いずれにしても有名人の似顔絵を描いている以上、見る人はその対象が有名人であるから見て楽しいわけであり、その楽しみの基本は有名人の肖像にあるということになる。無名の人を描いたところで誰もが見て楽しいわけでもない。掲載しているサイトが営利目的であるかどうかは別にして、有名人本人、又は所属の事務所やプロダクションから削除要求があった場合には素直に従うべきであろう。そこでヘンにツッパって訴訟に持ち込んだところでメリットはないはず。裁判を続けるには相応のコストと手間がかかるのだ。経済力と組織力のある相手に勝てる可能性は少ない。特に肖像権という極めて抽象的な問題となっては、やはり優秀な弁護士を長期間顧問とできる経済力があるものが勝訴する可能性が高いだろう。

さて、ついでにもう1つ。著作権の問題。これは似顔絵としての作品が、例えばCDのジャケットやポスターの写真をそのまま写し取ったものだった場合、その著作権は、写真を撮影したカメラマン、またはそのカメラマンから著作権を譲渡された有名人本人や所属プロダクション等にある。ヘアスタイルは元々ヘアデザイナーに、衣装はファッションデザイナーに、ロゴや全体のレイアウトについてはグラフィックデザイナーにあることになる。

これらは仮に描いた似顔絵作品を有償で販売した場合には明らかな著作権の侵害となる。販売しないにしてもウェブサイトで公開しているならば、その作品の著作権は似顔絵を描いた作者以外の多くの人が所有していることになる。自分が描いたのだか。。と思うかもしれないが、いくら正確にトレースして時間をかけて丹念に描いた作品であっても、結果はオリジナルをXEROXした紙と大して変わりはない。

これは「絵」を描く際に、最初から構図やモチーフそのものが確定しているわけであり、描き始める時点で、ゼロから「絵」という作品を制作するに対して大半の作業が完了しているわけである。8合目からスタートして山登りするようなもの。このコトをしっかりと意識しておかなければいけないだろう。



似顔絵と肖像権-1  1998.4.16

まず著作権の話になってしまうのですが、先日X-filesのモルダー&スカリーの似顔絵を描こうと思い Yahoo USAを検索したところ数多くのサイトに画像や写真のコーナーがあり、似顔絵を描くための資料については不自由しないと思ったのであります。

ところがこれらのサイトを順番に観ていくと、どこも画像のコーナーが工事中、閉鎖、になっていました。 その中に閉鎖の理由が掲載されているサイトがあったので、ちょと苦労しながら英文を読んでみると、どうやら20世紀フォックス社よりクレームがついてX-files関連の画像を削除したとのことでした。

このクレームは各サイトのWeb masterに手紙(E-mailではない)で通知されたらしく、この手紙をスキャナーで取り込んだ画像を代わりに掲載しているサイトもありました。

アメリカの映画俳優、女優の、主にファンが作ったと思われる非公認サイトの場合、その女優、俳優の画像を集めたコーナーがあり、その画像の数も半端じゃないというのが定番になっているようです。そしてその画像は映画のポスター、雑誌の表紙や記事、ビデオからのヒトコマ、出演しているCMの画像など、いろいろな所から集めているようです。果たしてこれら全ての画像が、映画会社、雑誌社等から掲載許可を得て載せているかどうかというと、あくまで想像の範囲ではありますが、掲載許可は得ていないのではないかと思います。

たまたまX-filesのモルダー&スカリーは、その掲載されている画像のほとんどが20世紀フォックス社が著作権を所有している画像であったため、上記のような一括ガサイレが効果を発揮したのではないかと思います。

これがシュワルツネガーだとすれば、映画のポスターの他、日本の食品メーカーの画像や新聞の報道記事など 著作権があちこちに散らばっているため、仮に映画会社が著作権を持つ画像だけを削除させても、残りの多くの画像は掲載されたままになります。ジャッキー・チェーン等はもっと出所がわかりずらい画像が多いのではないかと思われます。

日本のアイドル、タレント関連のサイトの場合、特にファンが作ったページではそのアイドルの写真が掲載されているページはあまりありません。この点では著作権に関する理解がアメリカよりも進んでいるようにも 思います。

いずれにしてもWeb上に掲載される有名人の写真は少なくなる傾向があるようです。似顔絵を描くための資料を集めるという目的では、ファンの作ったページから有名人の画像を集められる確率がだんだん低くなってきています。

最近ではファンのページよりもWeb上の新聞記事の方が画像が載っている確率が高くなっています。新聞記事の場合、著作権は新聞社にあり肖像権もその目的が「報道」でありWeb上に掲載した記事を説明するための「引用」ということになれば、まずクレームとなる心配もありません。

Web上に掲載される有名人の写真が少なくなれば、その分我々似顔絵描きの仕事が増えるということになるかもしれません。しかし似顔絵を描く以上、やはり肖像権は避けては通れない問題であり、概略だけでも理解 しておいた方がいいとは思います。

肖像権に関する解りやすい説明は「武田勝弘HP」→「枕を高くして寝れるホームページ作り」→「肖像権とパブリシティー権」 にあります。またこのHP主宰の武田勝弘さんに具体的な質問をしたところ、下記の様な回答をいただきました。たいへん解りやすいのでそのまま引用させていただきました。


・・・・・・・・・・質問・・・・・・・・・・・・・・


>はじめまして、
>WPC(Web Portrait Circle)代表の斎藤といいます。

>[WPCは有名人の似顔絵を掲載しているHPのサークルです]

>貴HP拝見させていただき大変参考になりました。
>さてメールしましたのは、肖像権についてなのですが、
>下記のような場合どうなるのでしょうか?
>もしよろしかったら教えて下さい。

----------------------------


>ある有名人(仮称:山田太郎)の似顔絵をHPに掲載する。
>ただし似顔絵の画像の近くにはローマ字で"YAMADA"と
>のみ記されていて、その似顔絵が「山田太郎」を描いた
>ものであるとの特定はできないものとする。

>1.似顔絵が下手で誰が見ても有名人の「山田太郎」には見えない
>2.顔は似ていないが描かれた服装や持ち物(楽器等)から「山田太郎」
> であることは推測できる
>3.極端にデフォルメされてはいるが「山田太郎」の特長を的確に捉えて
> いるため「山田太郎」であることは推測できる

----------------------------


>上記1〜3、それぞれどの程度肖像権に抵触するものでしょうか?
>現実には、
>>名誉毀損的な問題のない限り権利主張をせず許容してきたと思います。
>になるとは思いますが(実際我々WPCでもクレームを受けたことは
>ありません)万が一訴えられたときにビビらないために教えて下さい。

>また似顔絵画像に対する名前の表記の仕方(上記"YAMADA")に
>ついて、どの程度までが「本人と特定できる」範囲なのかも、もし
>わかるのであれば教えて下さい。(以下省略)


・・・・・・・・・・回答・・・・・・・・・・・・・・


> こんにちは、早速質問にお答えしましょう。

> 自分の肖像を勝手に使われない権利が肖像権なのですが、写真と違って
>似顔絵はどこまで本人なのかを特定する明確な境界がなく、より複雑です。

> 過去に似顔絵が肖像権侵害だとして裁判になった事例は、私が知る限り
>なかったと思います。そこで判断するとすれば事例に示していただいた、
>名前、服装、持ち物、画力など総合的に考慮して、一般人が当人と認識
>できるかで決まると思います。 

> ところで肖像権は、報道の自由と表現の自由からの制約を受けています。
>従来各メディアに掲載された有名人の似顔絵は報道扱いで、名誉毀損的な
>ものでもない限り問題となりませんでした。しかし一般人のホームページに
>ついては新しいことでまだ誰もはっきりしたことは分からないのですが、
>おそらく報道と扱われることは厳しいでしょう。今までの流れから言うと、
>他人の肖像を承諾なく利用して、かつ報道でないものは原則として肖像権
>侵害ということになってしまいます。

> 残された表現の自由は更に曖昧なので強力な根拠とはなりえないと思う
>のですが、いずれにせよ、肖像を利用することの公共性が重要だと思いま
>す。具体的には一般人よりも有名人の方が公共性が高いと言えます。

> そして名誉毀損にならないことでしょう。名誉毀損は人の社会的評価を
>低下させることなのですが、事実なら名誉毀損にならないわけではありません。
>事実でも公共の利益に関係し、公益を図る目的でなければならないのです。
>反対に意見表明が公正な論評ならば名誉毀損にはなりません。これらの
>条件を文章から絵画に当てはめれば、似顔絵の場合でも妥当するでしょう。

> しかし有名人の場合は肖像権が制限されるのとは対照的にパブリシティー権
>が認められるので、似顔絵の場合も注意が必要です。この権利については
>ホームページの解説を参照してもらいたいのですが、簡潔に言えばタレントの
>宣伝効果を利用してお金もうけをしてはいけないということです。例えば
>物を売っていたり、有料広告を載せているページにタレントの似顔絵を置く
>べきではありません。

> 結局質問はして頂いたのですが、ご覧のようにはっきりしたことは
>分からないのです。実際に事件になる位、個別的な事例でもなければ誰も
>断言できないと思います。

> 現実的なアドバイスとして、万が一、芸能事務所からクレームが届いたら
>即座にその似顔絵の掲載をやめることです。そうすれば訴えられることは
>ありません。またクレーム(警告状)なしに突然訴えられることもありません。

> 少しでも参考にしていただければ幸いです。それでは。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


社団法人 日本音楽事業者協会のサイトで分かりやすく解説されています→ 肖像権Q&A



有名人の似顔絵
「みんばのお店・有名人の似顔絵」TOP


.